大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和56年(ワ)8691号 判決

原告

小野里マツ

ほか一名

被告

大友賢二

ほか二名

主文

一  被告大友哲也は原告小野里マツに対し金四三九万一、七六八円及び内金三九九万一、七六八円に対する昭和五四年七月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告大友哲也は原告日特金属工業健康保険組合に対し金一一一万八、八四〇円及び内金一〇一万八、八四〇円に対する昭和五七年三月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らの被告大友哲也に対するその余の請求並びに被告大友賢二、同大友のり子に対する請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用中、原告らと被告大友哲也との間に生じたものはこれを五分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告大友哲也の負担とし、原告らと被告大友賢二、同大友のり子との間に生じたものは全部原告らの負担とする。

五  この判決の第一、第二項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告小野里に対し金五五〇万円及び内金五〇〇万円に対する昭和五四年七月二二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告らは各自原告組合に対し金一三五万円及び内金一二〇万円に対する昭和五七年三月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

(一) 日時 昭和五四年七月二一日午後三時三〇分ころ

(二) 場所 練馬区南大泉町四五六番地先交差点

(三) 加害者 被告哲也(昭和四〇年七月一日生)

(四) 被害者 原告小野里(大正一五年一月二日生)

(五) 態様 原告小野里が自転車に乗り前記交差点を東方から西方に向けて進行し、交差点を通過し終る直前、同交差点を北方から南方に向けて速いスピードで自転車を運転してきた被告哲也が、その前部を原告小野里の自転車の右側後部荷台付近に衝突させ、原告小野里を路上に転倒させた。

(六) 結果 原告小野里は、左下腿骨膝関節内骨折、左前腕左肩打撲傷の傷害を受け、事故時から昭和五六年五月一三日までの間に入院二九九日、通院一二回にわたり治療を受けたが、左膝関節に屈曲障害のある後遺障害を残した。

2  被告らの責任

(一) 被告哲也は、自転車に乗り前記交差点を進行するについて、徐行を怠り、かつ交差点内の安全を確認しなかつた点に過失があり、民法七〇九条の責任がある。

(二) 被告賢二、同のり子は、被告哲也の父母であり、一般に親権者として心身の十分発達していない子供に対し危険にわたる行為をしないように指導監督すべき義務があるのはもちろん、とりわけ、それ自体として危険性を帯びている自転車の運転に対しては、交通規則を守ることを指導するだけでなく、地理不案内な場所や交通量の多い場所にみだりに出かけないよう注意すべき義務があるにもかかわらず、満一四歳になつたばかりの中学二年生の被告哲也が夏休みに入つた初日に学区外の場所まで自転車で乗り出すことを制止せず、かつこれに何らの注意も与えなかつた点で親権者の監督義務懈怠の過失があるから、民法七〇九条の責任がある。

3  原告小野里の損害

(一) 治療費 金七九万三、四四二円

健康保険治療における自己負担分(総治療費の三〇パーセント)金七二万七、七四二円、保険外室料差額金六万五、七〇〇円の合計額

(二) 休業損害 金七五万八、〇二六円

入院期間中主婦としての家事労働等が一切できず、一部娘らがかわつてこれを行ない、次のとおり(昭和五四年賃金センサス五四歳学歴計年収×主婦寄与分×年間日数に対する割合)金七五万八、〇二六円の損害を蒙つた。

185万0,700円×1/2×299/365=75万8,026円

(三) 付添看護費 金九万九、〇〇〇円

要付添期間三三日、一日当り金三、〇〇〇円の割合による付添看護費

(四) 入院雑費 金一七万九、四〇〇円

一日当り金六〇〇円として、入院期間二九九日間の雑費

(五) 通院交通費 金四、三二〇円

保谷から三鷹駅までバス(金一二〇円)、三鷹駅から信濃町駅まで国電(金一二〇円)を九往復した交通費

(六) 入通院慰謝料 金一四〇万円

(七) 逸失利益 金二〇三万二、七六〇円

原告小野里は、症状固定時(昭和五六年五月一三日)満五六歳のところ、左膝関節に屈曲障害の後遺症を残し、これは自賠責保険における後遺障害等級一二級七号に該当するから、次のとおり(昭和五四年賃金センサス五六歳学歴計年収×労働能力喪失率×一一年のライプニツツ係数)金二〇三万二、七六〇円の損害を蒙つた。

174万8,100円×14/100×8,306=203万2,760円

(八) 後遺症慰謝料 金一八〇万円

4  原告組合の損害

原告組合は、組合員である訴外小野里のために、その治療費総額の七〇パーセントである金一六九万八、〇六七円を病院に支払つて保険給付をしたから、右金員につき原告小野里が被告らに対して有する損害賠償請求権を取得した。

5  弁護士費用

(一) 原告小野里について金五〇万円

(二) 原告組合について金一五万円

6  請求額

(一) 原告小野里は被告らに対し、前記3の損害の内金五〇〇万円と前記5の弁護士費用の合計額金五五〇万円及び内金五〇〇万円に対する本件事故発生日の翌日である昭和五四年七月二二日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二) 原告組合は、被告らに対し、前記4の損害の内金一二〇万円と前記5の弁護士費用の合計額金一三五万円及び内金一二〇万円に対する本訴状送達の後である昭和五七年三月七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び被告らの主張

1  請求原因1の事実中、事故発生の日時場所は認めるが、その余は争う。

2  同2の被告らの責任は争う。この点についての被告らの主張は、後記6、7のとおりである。

3  同3の原告小野里の損害は不知。

4  同4の原告組合の損害は不知。

5  同5の弁護士費用は不知。

6  被告哲也は、以前にも何回か自転車に乗つて本件交差点を通過したことがあり、見通しのよくないことを知つていたので、本件事故の際も、交差点に入る手前付近で速度を落として通過する態勢に入り、事故発生地点の約四メートル手前で原告小野里を発見し、直ちにブレーキをかけて停止した。しかるに、原告小野里は、被告哲也を発見すると同時に自己の運転する自転車の速度をゆるめ停止すべきであつたにもかかわらず、何らそのような措置をとらず従前の速度のまま本件交差点を通過しようとしたため、被告哲也の自転車の前輪が原告小野里の自転車の前輪にぶつかる形となり、しかも原告小野里が直ちに左足で自己の体を支え転倒を避けるべきであつたのに、そのような行為をしなかつたため、進行方向左側に転倒したのである。

したがつて、原告小野里の損害の発生は、もつぱら原告小野里の過失に基づくものであり、仮に被告哲也が無過失でないとしても、原告小野里にも重大な過失があつたというべきであるから、賠償額を定めるについて十分斟酌されるべきである。

7  被告賢二、同のり子は、被告賢二が大学の教職にあることもあつて、子供の躾及び教育に関しては十分配慮し、社会的問題を惹起しないように指導監督してきたのであり、被告哲也は家庭生活及び学校生活のいずれにおいても模範的な少年であつた。また、右被告両名は、被告哲也に対し、自転車に乗る時は、他の車や人にぶつけたりしないように、スピードを出しすぎないようにと常に口をすつぱくして注意を与えていたのであつて、十分な指導監督を続けてきたのであるから、被告賢二、同のり子には本件事故に関して何ら指導監督上の義務違反はない。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1の事実中、事故発生の日時場所については当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二、第三号証、原告小野里、被告哲也の各本人尋問の結果によれば、本件事故現場は、ほぼ南北に通ずる道路(幅員は交差点北側が約四メートル、南側が約五・四メートル)とほぼ東西に通ずる道路(幅員は交差点東側が約五・五メートル、西側が約三・八メートル)とが十字に交わる交通整理の行なわれていない交差点であり、路面は平坦で舗装されていたこと、付近は住宅地であつて交通は閑散としており、交通規制は南北に通ずる道路の南方からの進入車両に対してのみ一時停止の標識が設置されていたこと、原告小野里(当時五四歳)は、紳士婦人兼用自転車に乗り、東西に通ずる道路を東から西に向けて普通の速度で本件交差点にさしかかり、そのままの速度で交差点を直進しようとしたこと、一方、同じころ、被告哲也(当時一四歳)も、紳士婦人兼用自転車に乗り、南北に通ずる道路を北から南に向けて本件交差点にさしかかり、交差点を直進しようとしたこと、本件交差点の東北側には道路に接して建物が建てられており、原告小野里の進行方向からも、被告哲也の進行方向からも、それぞれ相手方の交差道路に対する見通しが妨げられていたこと、その結果、本件交差点のほぼ中央付近(甲第二、第三号証によると、衝突地点についての原告小野里と被告哲也の指示説明が若干違つているが、当時の路面の痕跡からして被告哲也の指示が正確と思われる。)において、原告小野里の自転車の右側面に被告哲也の自転車の前輪が衝突し、原告小野里は、自転車もろとも左側に転倒して左膝部分を路面に強打したこと、被告哲也は、左足で支えて自からは転倒を免れたものの、自転車は左側に倒れたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

ところで、衝突時の模様について、原告小野里と被告哲也とでは異なつた指示説明をしている。すなわち、前掲甲第三号証によれば、原告小野里は、交差点に進入するに際し、右方道路約一五・八メートル先に被告哲也を発見したが、そのまま約四・三五メートル進行したところ、被告哲也が約一三・八二メートル進行して、原告小野里の自転車の後輪付近に衝突した、とされており、前掲甲第二号証によれば、被告哲也は、交差点に進入するに際し、左方道路から交差点に進入してきた原告小野里を左前方約五メートル先に発見し、ブレーキをかけたが間に合わず、約三・八五メートル進行して、約三メートル進行した原告小野里の自転車の前輪付近に衝突した、とされている。

考えてみるに、原告小野里の前記指示説明によれば、原告小野里が約四・三五メートル進行する間に、被告哲也は約一三・八二メートル進行したことになるから、被告哲也の速度は少くとも原告小野里の速度の約三・一七倍はでていたことになり、仮に原告小野里の速度が時速約一〇キロメートルであつたとすると、被告哲也は時速約三一キロメートルで走つていたことになる。原告小野里は、本人尋問の結果において、被告哲也のスピードは速かつた、と述べているが、被告哲也本人尋問の結果に照らすと、被告哲也が自転車としてはかなり高速である右のような速い速度で走つていたとは認め難い。したがつて、原告小野里の前記指示説明をそのまま採用することはできない。しかし、被告哲也の指示説明によつても、原告小野里が約三メートル進行する間に、被告哲也はブレーキをかけながら約三・八五メートル進行しているのであるから、被告哲也の速度が原告小野里の速度を上回つていたことは否定できない。被告哲也は、本人尋問の結果において、普通の速度で走行してきて本件交差点の約五〇メートル手前からペタルを踏むのを止めスピードを落とした、と述べているが、平坦な道路をそのように走行してきたのであれば、原告小野里を発見しブレーキをかけた時点で速やかに停止し事故は避けられていたのではないかと考えられるのであり、被告哲也の右供述部分は到底措置できない。

なお、衝突部位が原告小野里の自転車の前輪付近か、又は後輪付近かについては、被告哲也が衝突直前にハンドルを左に切つていることが、被告哲也本人尋問の結果によつて認められるので、後輪付近に衝突したのではないかとも考えられるが、証拠上いずれであるかを断定し難い。(甲第二号証によると、原告小野里の自転車の「前カゴ右側が擦過曲損、右ペタル先端が路面と擦過している」との記載があるが、原告小野里の自転車が左側に倒れたことは前認定のとおり明らかであるから、「右側」、「右ペタル」というのは、「左側」、「左ペタル」の誤記である可能性が強く、右の記載から原告小野里の前輪付近に衝突したと推認することはできない。)

二  本件事故は、前記のとおり交差点における自転車同士の出合頭の衝突であり、前記説示からすれば、被告哲也には、本件交差点に進入するに際し、徐行することなく、交差道路に対する安全を十分確認しなかつた点に過失のあることが明らかであるから、民法七〇九条の責任を免れない。しかし、原告小野里にも、本件事故発生について被告哲也に対する動静注視を怠つた点に過失のあることは否定できない。したがつて、本件においては過失相殺を相当とするところ、原告小野里の方が左方車両であること(道路交通法三六条一項参照)、被告哲也の速度の方が速かつたこと、その他前記説示した諸般の事情を考慮すると、被告哲也が当時満一四歳の少年であつたことを被告哲也に有利に斟酌しても、原告小野里の過失割合は四割を超えることはないというべきであり、本件では四割の過失相殺を相当と考える。

三  被告哲也の父母である被告賢二、同のり子の責任について検討するに、責任能力ある未成年者の不法行為について、親権者に監督義務違反の過失があり、この過失と未成年者の不法行為との間に相当因果関係が認められる場合には、親もまた民法七〇九条による責任を負うものと解されるが、本件においては親権者である右被告両名に、かかる監督義務懈怠による責任があることを認めるに足りる証拠はない。

すなわち、被告哲也、同賢二の各本人尋問の結果によれば、本件事故当日は学校が夏休みに入つた初日であり、事故現場は学区外の自宅から約一・五キロメートル離れた場所であること、被告哲也は、事故現場から間もなくの友人宅に行く途中であることが認められるが、一方、被告哲也は、小学一年生のころから自転車に乗つているが、これまで交通事故を起こしたことはなく、また学業は上位であり学校内や家庭で問題行動を起こしたこともないこと、父母である被告賢二、同のり子は、日頃被告哲也の教育や躾に意を用い、交通事故については気を付けるよう相応の注意をしていたことが認められる。したがつて、被告哲也は、たまたま不注意により本件事故を起こしたが、平素から非行性があつたとか、問題行動がみられたとかいうことは全く認められず、また被告賢二、同のり子において平素必要な監督義務を尽さず被告哲也を放任していたというような事情も見当らないのであるから、本件において被告賢二、同のり子に対し民法七〇九条による責任を問うことはできないといわなければならない。

四  原告小野里の本件事故による傷害の部位・程度等についてみてみるに、成立に争いのない甲第六ないし第一一号証によれば、原告小野里は、本件事故により左下腿骨、膝関節内骨折、左前腕、左肩打撲傷等の傷害を負い、昭和五四年七月二一日から同月二三日まで三日間川満医院に入院、同日から同年八月一〇日まで一九日間佐々病院に入院、同月一一日から同年九月二二日まで佐々病院に通院(内実日数三日)、同月二五日から昭和五五年六月二八日まで二七八日間慶応義塾大学月が瀬リハビリテーシヨンセンターに入院、同年七月二二日から昭和五六年五月一三日まで慶応義塾大学病院に通院(内実日数一〇日)してそれぞれ治療を受けたが、昭和五六年五月一三日主に左膝関節の屈曲障害(健側の右膝関節の屈曲が一三〇度であるのに対し、左膝関節の屈曲が七〇度に制限されている。)の後遺症を残して症状固定したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

五  次に、原告小野里の損害について判断する。

1  治療費

原告小野里本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第五号証、第一六ないし第一八号証、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立とも認められる甲第一二号証、第一三号証の一ないし三、第一四号証の一ないし一〇、第一五号証の一ないし八、原告小野里本人尋問の結果によれば、原告小野里は、夫である訴外小野里正一の勤める会社の健康保険を使用して前記入通院の治療を受け、昭和五四年七月二一日から昭和五六年三月末日までの治療費として合計金二四二万五、八一〇円を要したところ、その内の七割については健康保険の被扶養者として原告組合から保険給付を受け、残りの三割に当る金七二万七、七四二円を自己負担分として支出したほか、川満医院及び佐々病院における入院期間中の健康保険給付の対象にならない差額室料として金六万五、七〇〇円(甲第一六ないし第一八号証によれば、差額室料は金六万七、五〇〇円となるが、原告小野里の請求する金額を認定。)を支出したことが認められるから、原告小野里は、主張のとおり治療費として合計金七九万三、四四二円の損害を蒙つた。

2  付添看護費

成立に争いのない甲第六、第七号証、原告小野里本人尋問の結果によれば、原告小野里は、川満医院及び佐々病院における二一日間の入院期間中に付添を必要としたことはもちろん、佐々病院退院後の昭和五四年八月一一日から同月二一日までの一一日間についても自宅において付添を必要としたことが認められるところ、入院期間中は一日当り金三、〇〇〇円、退院後は一日当り金二、〇〇〇円としてその費用を算定するのを相当とするから、原告小野里は、付添看護費として合計金八万五、〇〇〇円の損害を蒙つた。

3  入院雑費

原告小野里は、前記のとおり川満医院、佐々病院及び慶応義塾大学月が瀬リハビリテーシヨンセンターに通じて二九九日間入院しており、その期間中雑費として一日当り金六〇〇円を下らない費用を要したと推認するのを相当とするから、原告小野里は、主張のとおり入院雑費として合計金一七万九、四〇〇円の損害を蒙つた。

4  通院交通費

原告小野里本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告小野里は、自宅から慶応義塾大学病院に通院するためにバス、国電を利用し、交通費として片道金二四〇円を要することが認められるところ、前記のとおり慶応義塾大学病院に一〇日間通院しているから、原告小野里は、主張のとおり(九往復分)通院交通費として合計金四、三二〇円の損害を蒙つた。

5  休業損害

原告小野里は、前記のとおり二九九日間入院しているから、その間家事労働等が一切できず、控え目にみても、主張のとおり休業損害として金七五万八、〇二六円を下らない損害を蒙つた。

6  逸失利益

原告小野里は、前記のとおり昭和五六年五月一三日(当時満五六歳)症状固定し、左膝関節に屈曲障害の後遺症を残したところ、右障害は関節の運動可能領域が腱側の運動可能領域の四分の三以下に制限されていることが明らかであるから、後遺障害認定基準に照らし、自賠法施行令第二条別表の後遺障害等級一二級七号に該当すると認められる。してみれば、原告小野里は、控え目にみても、主張のとおり逸失利益として金二〇三万二、七六〇円を下らない損害を蒙つた。

7  慰謝料

本件事故の態様、発生原因、原告小野里の傷害の部位・程度、入通院期間、後遺症の部位・程度、原告小野里及び被告哲也の年齢、被告側の事後の対応等本件において認められる一切の事情を考慮すると、本件事故による原告小野里の慰謝料としては金二八〇万円をもつて相当と認める。

8  過失相殺

原告小野里の前記1ないし7の損害額合計は金六六五万二、九四八円になるところ、前記のとおり本件においては四割の過失相殺をするのを相当とするからこれを控除すると、損害額は金三九九万一、七六八円となる。

9  弁護士費用

原告小野里は、被告哲也から損害金の任意の支払を受けられなかつたため、原告ら訴訟代理人弁護士に委任して、本件訴訟を提起、遂行することを余儀なくされたところ、本件訴訟の難易、審理経過、前記認容額、その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係ある弁護士費用としては金四〇万円をもつて相当と認める。

六  原告組合の損害について判断する。

1  求償金

原告組合は、前記のとおり組合員である訴外小野里正一の被扶養者である原告小野里のために、治療費総額金二四二万五、八一〇円の七割である金一六九万八、〇六七円について、これを病院に支払つて保険給付をしたのであるから、健康保険法六七条一項により右価額の限度において被告哲也に対する原告小野里の損害賠償請求権を取得すべきところ、本件においては前記のとおり四割の過失相殺をするのを相当とするからこれを控除すると、被告哲也に求償し得る損害額は金一〇一万八、八四〇円となる。

2  弁護士費用

原告組合は、被告哲也から任意の支払を受けられなかつたため、原告ら訴訟代理人弁護士に委任して、本件訴訟を提起、遂行することを余儀なくされたところ、本件訴訟の難易、審理経過、前記認容額、その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係ある弁護士費用としては金一〇万円をもつて相当と認める。

七  以上のとおり、被告哲也は、原告小野里に対し、損害金四三九万一、七六八円及び内金三九九万一、七六八円に対する本件事故発生日の翌日である昭和五四年七月二二日から、原告組合に対し、損害金一一一万八、八四〇円及び内金一〇一万八、八四〇円に対する本訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五七年三月七日からそれぞれ支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

よつて、原告小野里及び原告組合の被告哲也に対する請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、その余の部分は理由がないのでこれを棄却し、被告賢二、同のり子に対する請求は理由がないのでいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 武田聿弘)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例